恋する乙女
軽くスタートの合図を送ると違う世界に瞬間移動をしたような錯覚に襲われた。『うわぁー!なんだこれは、私天才!?』違うのだ、次元が違いすぎる『今まで乗っていた馬とは全く違う』今でも確かに馬に乗っていた、『太郎公』も馬のはずなのだが、ちがう。『私はギリシャ神話に出てくるペガサスに乗っているのではないか』と錯覚する。興奮してくる少しの合図でこの子は右に回ったり左に回ったりと動いてくれる。いや、合図で動いて...
蟻洞
恋したものの私にはセレブ奥様のような生活はできない。でも『好き』チョット救いは太郎公は二人で持つということであった、そうまさに半分の所有権を持つ方が居たのである。あまりにも熱心し通う私に乗馬クラブのDさんは半分のオーナー権を私にと白羽の矢を当てていたのである。半分なら旦那に内緒でも持てそうな気がしてきた、大きなダイヤが欲しいわけでもないし、旦那のように車々と言っているわけでもないわけだし。決心をし...
私は負けない
太郎がかかった病気の蟻洞とは、治る当てのないと言われている予後不良の病なのだ。症状は蹄が蟻の巣のようにスカスカになって、やがては骨が下に降りて歩けないようになるのである。歩けないということは馬にとってすぐ“死”を意味する。こんな馬を所有する意味はない。そう思うのが自然の成り行だろう。やはり半分のオーナーの権利を放棄してきた。ここで私も放棄したら…でも乗れない馬を持つ?考えたくも無い状況は想像がつく。...
お馬の親子は
そんな戦っている私を見ている人がいた、Oさんである『内藤さんと一緒に僕もできる限り協力しますから太郎公とやっていきましょう』と言ってくれたのである。強い支えとなった。が、そうは問屋は卸さないのだ。馬房から馬を出さないという治療方法の診断を獣医は下した。動かさないのが最上の治療法というわけである。獣医の言うことだから素直に従いしばらくは馬房でブラシをかけたりと世話をするだけであった。ところが、逢うた...
内緒の話はあのねのね
クラブの馬を借りて乗馬練習に励みながら。乗ることのない太郎との散歩が一年を過ぎようとしてきた頃、神戸の大学から、二頭の馬がクラブに来た。二頭ともとても優秀な馬らしい。当然借り賃もワンランク上である。中でも、『ルピア』という馬はT君が大事に、大事に世話をしていた。外国産の大きな馬で国体などの大障害で活躍してきた馬で、乗馬を初めて数年の浅い私でもその名は聴いたことがあった。そんな馬に『乗ってみる?』と...